教員リレーエッセイ第13回『大学を卒業したら、何を目指しますか』
【大学を卒業したら、何を目指しますか】
このエッセイの読者は大学を目指す高校生や大学生が多いということで、そうした皆さんに向けて書いていきます。現在の高校や大学などでの学びを終えた後に、皆さんは将来どんな仕事をするのか、職業について考えたことがありますか。学校での学びを終えた後は、働いて自立できる人になる、つまり、学生から社会人になることは自然な姿であり、誰もがそのような成長を目指していることでしょう。
しかし、社会人になると言っても、どのような職業に就くのか、また就けるのか、仕事をよく理解し、キャリアを考えての決断が求められます。高校で3年間、大学で4年間を過ごした後、平均して人生は50年、仕事も40年ほど続き、学校より、はるかに長い職業生活を送ることになります。平日に8時間の勤務、通勤や残業の時間なども加えると、社会人は一日の活動時間のほとんどを仕事に費やします。このように仕事にかける時間は人生の大きな割合を占めているものの、職業を選ぶために、仕事に就くために、皆さんはどれほどの準備ができるでしょうか、またそのための支援を受けられるでしょうか。
中学から高校へ進学する際、学校を終えた後に就く職業のことはあまり考えずに、勉強がどれほどできるかで高校が決まった(決められた)という話はよく聞かれます。学力が高いから、この高校に行くべきといった進路の話です。大学進学はこの分野の勉強がしたい、学問を究めたいために加え、よい仕事に就きたいとの理由も相当大きいでしょう。
広く知られるように、大学の医学部進学者はその多くが医師という職業に就いています。医学の他にも薬学系や看護系で卒業すると薬剤師や看護師になっています。これらの大学教育は職業に直結しており、職業教育が行われていると言えます。しかし、より多くの学生が学ぶ文系と括られる人文系、経済学系、経営・商学系、国際系などの学部には、その教育に直結した職業があるとは言えません。
そのような状況もあり、特に文系の学生は大学入学後もどんな職業に就くかを考える機会がなく、大学3年で就職活動を始めると「就きたい仕事はない」「働くことが実感できない」などと悩むことが多いのが現状です。なぜそうしたことになるのか、大学生の職業意識の欠如という個人的な要因もありますが、現在の日本では学校や社会で将来の職業を考える機会が少ないことの方がより大きな要因と考えられます。
中学や高校での進路選択にさかのぼってみましょう。小学生や中学生は皆が同じ教育を受けていますが、高校では普通科と職業科に分かれます。両学科の生徒数の比率は50年前には、普通科:職業科は6:4と拮抗していましたが、今では8:2となっています。普通科の比率が大きく増え、職業科(職業高校)はどんどん減少しています。なぜなら、職業科の入学者が少ないからです。同じような傾向は短期大学(短大)にもみられます。
こうした現象の背景には「大学進学はよいこと」「できるだけ大学に行くべき」という社会的に浸透した意識があり、そのためにも高校は大学進学を前提とする普通科が好まれてきました。しかし、普通科の先には何があるのでしょうか。それを考えた中学生や高校生はどれほどいたのでしょうか。大学には普通科(学部)はありませんが、それに近いものは教養学部や文芸学部かもしれません。しかし、そうした普通科のような学部は大学では少数派であり、特に人気があるわけではありません。大学には商学部、工学部、農学部があり、そこで学ぶことは商業、工業、農業などの職業科(職業高校)で学ぶことを発展させたものです。つまり、高校普通科から発展した学部は大学にはなく、職業科の方が大学の学部とつながっているのです。
ここまで読んでくると、なぜあれほど高校の職業科の人気がなくなったのか、気になると思います。その理由として考えられるのは「大卒でないと就職できない」また「就職できても高卒では管理職になれない(出世できない)」と思われていることです。確かに企業はこの50年間、大卒採用を増やし、高校や短大からの採用を減らしてきました。企業や銀行などが新卒を大卒限定にしてきたという事実はあります。
しかし、最近では人物本位とし、中途採用では経験や実績を重視し、学歴不問となる傾向もみられます。また大学に行けばよい仕事に就けると考えられる理由には、大学の4年間で知識を増やし、視野を広げ、自分に合った仕事を選べるようになるという面もあるでしょう。反対に、大学に行っても思ったほどよい就職が出来ず、これなら高卒で就職した方がよかったという話も聞かれます。ニュースなどでもよく紹介されますが、高等専門学校(高専)や工業高校は人気が高く、就職も順調とされています。その理由は大学に行かなくても希望する仕事に就けているからです。筆者も工業高校を訪問した際、実習に取り組む生徒たちの明るさや教職員と生徒たちの意欲を感じた経験があります。
仕事と学校がうまくつながることができれば、意欲的な学生生活そして就職さらには仕事生活が送れる可能性が高まります。そのため、日本でもようやく2004年度から小学校、中学校、高校で、2011年度からは大学で、キャリア教育が導入されました。キャリア教育では、社会的かつ職業的な自立のために必要な能力や態度が育成されることになります。キャリア教育は教育・研究という大学の伝統的な機能でなく、まだ始まって10数年の新しい取り組みですが、大学教育の一部として、また社会的責務として極めて重要な機能となっています。
先の例でも医学部や看護系、そして工業高校や高専など、いわゆる理系の技術的教育では、職業との関連性が高く、学びが働くことにつながっています。一方、文系ではそうした職業とのつながりは希薄で、大学の学びは役に立たないなどと言われてきました。ここにキャリア教育の必要性があります。文系の学びも仕事に役立つことは理系の技術のように明確ではなく、間接的であいまいなつながりですが、その有効性は理解され、大学進学が支持される理由になっていると思います。
社会ではあまり知られていませんが、企業組織の職場で個々の仕事で必要な知識や能力に注目すると、そこに専門性があることがわかります。それらは営業、経理、情報、広報、人事や総務などの部門に含まれ、その中には企業独自のさまざまな仕事があります。これらの仕事を進める上で必要な能力は企業内に留まり、外部には詳しくは示されませんが、それぞれの仕事の実践においては、経験で培われる能力、知識や技術が求められます。すべての仕事が難しい高度なものではありませんが、数年以上の経験を要する、専門性が必要な仕事があり、そうした仕事をする力が企業の競争力となります。
大卒や高卒など学歴を問わず、就職した後に従事する仕事で優れた成果をあげるためには、その仕事の専門性を有することが重要です。そのような高い専門性を発揮できる人材になることが職業キャリアの目標になります。筆者は職務の専門性の高いホワイトカラー人材を「組織内プロフェッショナル」と称し、その職務にある専門性を社会的に評価・確立すべきと主張しました。2000年代初頭には、プロ人材や専門人材とされる専門性の高い人材が注目されました。現在では、コア人材やIT人材に変化していますが、専門人材の重要性に変わりはありません。
テレビのドラマなどで描かれるのは、病院、警察また放送局などの医師、看護師、刑事やディレクターですが、一般的な会社員であっても、高い専門性を発揮して、仕事を遂行しています。職務に専門性があることを認識するだけで、自分の今後のキャリアが見えてきます。このように文系の仕事であってもキャリア目標を立てて、自分の専門性を高めていくことができます。自分のキャリアと専門性を通して、学習と仕事をつなぐことが可能になります。高校や大学での教育・学びをキャリアや仕事の専門性に活かすことから、自らの成長、そして、なりたい自分の実現を目指してください。
このエッセイの読者は大学を目指す高校生や大学生が多いということで、そうした皆さんに向けて書いていきます。現在の高校や大学などでの学びを終えた後に、皆さんは将来どんな仕事をするのか、職業について考えたことがありますか。学校での学びを終えた後は、働いて自立できる人になる、つまり、学生から社会人になることは自然な姿であり、誰もがそのような成長を目指していることでしょう。
しかし、社会人になると言っても、どのような職業に就くのか、また就けるのか、仕事をよく理解し、キャリアを考えての決断が求められます。高校で3年間、大学で4年間を過ごした後、平均して人生は50年、仕事も40年ほど続き、学校より、はるかに長い職業生活を送ることになります。平日に8時間の勤務、通勤や残業の時間なども加えると、社会人は一日の活動時間のほとんどを仕事に費やします。このように仕事にかける時間は人生の大きな割合を占めているものの、職業を選ぶために、仕事に就くために、皆さんはどれほどの準備ができるでしょうか、またそのための支援を受けられるでしょうか。
中学から高校へ進学する際、学校を終えた後に就く職業のことはあまり考えずに、勉強がどれほどできるかで高校が決まった(決められた)という話はよく聞かれます。学力が高いから、この高校に行くべきといった進路の話です。大学進学はこの分野の勉強がしたい、学問を究めたいために加え、よい仕事に就きたいとの理由も相当大きいでしょう。
広く知られるように、大学の医学部進学者はその多くが医師という職業に就いています。医学の他にも薬学系や看護系で卒業すると薬剤師や看護師になっています。これらの大学教育は職業に直結しており、職業教育が行われていると言えます。しかし、より多くの学生が学ぶ文系と括られる人文系、経済学系、経営・商学系、国際系などの学部には、その教育に直結した職業があるとは言えません。
そのような状況もあり、特に文系の学生は大学入学後もどんな職業に就くかを考える機会がなく、大学3年で就職活動を始めると「就きたい仕事はない」「働くことが実感できない」などと悩むことが多いのが現状です。なぜそうしたことになるのか、大学生の職業意識の欠如という個人的な要因もありますが、現在の日本では学校や社会で将来の職業を考える機会が少ないことの方がより大きな要因と考えられます。
中学や高校での進路選択にさかのぼってみましょう。小学生や中学生は皆が同じ教育を受けていますが、高校では普通科と職業科に分かれます。両学科の生徒数の比率は50年前には、普通科:職業科は6:4と拮抗していましたが、今では8:2となっています。普通科の比率が大きく増え、職業科(職業高校)はどんどん減少しています。なぜなら、職業科の入学者が少ないからです。同じような傾向は短期大学(短大)にもみられます。
こうした現象の背景には「大学進学はよいこと」「できるだけ大学に行くべき」という社会的に浸透した意識があり、そのためにも高校は大学進学を前提とする普通科が好まれてきました。しかし、普通科の先には何があるのでしょうか。それを考えた中学生や高校生はどれほどいたのでしょうか。大学には普通科(学部)はありませんが、それに近いものは教養学部や文芸学部かもしれません。しかし、そうした普通科のような学部は大学では少数派であり、特に人気があるわけではありません。大学には商学部、工学部、農学部があり、そこで学ぶことは商業、工業、農業などの職業科(職業高校)で学ぶことを発展させたものです。つまり、高校普通科から発展した学部は大学にはなく、職業科の方が大学の学部とつながっているのです。
ここまで読んでくると、なぜあれほど高校の職業科の人気がなくなったのか、気になると思います。その理由として考えられるのは「大卒でないと就職できない」また「就職できても高卒では管理職になれない(出世できない)」と思われていることです。確かに企業はこの50年間、大卒採用を増やし、高校や短大からの採用を減らしてきました。企業や銀行などが新卒を大卒限定にしてきたという事実はあります。
しかし、最近では人物本位とし、中途採用では経験や実績を重視し、学歴不問となる傾向もみられます。また大学に行けばよい仕事に就けると考えられる理由には、大学の4年間で知識を増やし、視野を広げ、自分に合った仕事を選べるようになるという面もあるでしょう。反対に、大学に行っても思ったほどよい就職が出来ず、これなら高卒で就職した方がよかったという話も聞かれます。ニュースなどでもよく紹介されますが、高等専門学校(高専)や工業高校は人気が高く、就職も順調とされています。その理由は大学に行かなくても希望する仕事に就けているからです。筆者も工業高校を訪問した際、実習に取り組む生徒たちの明るさや教職員と生徒たちの意欲を感じた経験があります。
仕事と学校がうまくつながることができれば、意欲的な学生生活そして就職さらには仕事生活が送れる可能性が高まります。そのため、日本でもようやく2004年度から小学校、中学校、高校で、2011年度からは大学で、キャリア教育が導入されました。キャリア教育では、社会的かつ職業的な自立のために必要な能力や態度が育成されることになります。キャリア教育は教育・研究という大学の伝統的な機能でなく、まだ始まって10数年の新しい取り組みですが、大学教育の一部として、また社会的責務として極めて重要な機能となっています。
先の例でも医学部や看護系、そして工業高校や高専など、いわゆる理系の技術的教育では、職業との関連性が高く、学びが働くことにつながっています。一方、文系ではそうした職業とのつながりは希薄で、大学の学びは役に立たないなどと言われてきました。ここにキャリア教育の必要性があります。文系の学びも仕事に役立つことは理系の技術のように明確ではなく、間接的であいまいなつながりですが、その有効性は理解され、大学進学が支持される理由になっていると思います。
社会ではあまり知られていませんが、企業組織の職場で個々の仕事で必要な知識や能力に注目すると、そこに専門性があることがわかります。それらは営業、経理、情報、広報、人事や総務などの部門に含まれ、その中には企業独自のさまざまな仕事があります。これらの仕事を進める上で必要な能力は企業内に留まり、外部には詳しくは示されませんが、それぞれの仕事の実践においては、経験で培われる能力、知識や技術が求められます。すべての仕事が難しい高度なものではありませんが、数年以上の経験を要する、専門性が必要な仕事があり、そうした仕事をする力が企業の競争力となります。
大卒や高卒など学歴を問わず、就職した後に従事する仕事で優れた成果をあげるためには、その仕事の専門性を有することが重要です。そのような高い専門性を発揮できる人材になることが職業キャリアの目標になります。筆者は職務の専門性の高いホワイトカラー人材を「組織内プロフェッショナル」と称し、その職務にある専門性を社会的に評価・確立すべきと主張しました。2000年代初頭には、プロ人材や専門人材とされる専門性の高い人材が注目されました。現在では、コア人材やIT人材に変化していますが、専門人材の重要性に変わりはありません。
テレビのドラマなどで描かれるのは、病院、警察また放送局などの医師、看護師、刑事やディレクターですが、一般的な会社員であっても、高い専門性を発揮して、仕事を遂行しています。職務に専門性があることを認識するだけで、自分の今後のキャリアが見えてきます。このように文系の仕事であってもキャリア目標を立てて、自分の専門性を高めていくことができます。自分のキャリアと専門性を通して、学習と仕事をつなぐことが可能になります。高校や大学での教育・学びをキャリアや仕事の専門性に活かすことから、自らの成長、そして、なりたい自分の実現を目指してください。

宮下ゼミの様子

ゼミ合宿での企業訪問の様子
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【筆者】
宮下 清 教授
筑波大学社会学類卒業、横浜国立大学博士(学術)
専門は経営学(組織人材、国際経営)
首都大学東京(現東京都立大学)教授などを経て現職
【学んだ専門用語】
キャリア、職業教育、キャリア教育、専門性、組織内プロフェッショナル
【高校生・大学生のためのブックガイド】
児美川孝一郎 (2023)『キャリア教育がわかる』誠信書房
平沼 高・新井吾朗 (2008)『もうひとつのキャリア形成』職業訓練教材研究会
本田由紀 (2009)『教育の社会的意義』筑摩書房
宮下 清 (2001)『組織内プロフェッショナル』同友館
宮下 清(2018)『働き方改革をすすめる「ホワイトカラー資格」』中央経済社
【筆者】
宮下 清 教授
筑波大学社会学類卒業、横浜国立大学博士(学術)
専門は経営学(組織人材、国際経営)
首都大学東京(現東京都立大学)教授などを経て現職
【学んだ専門用語】
キャリア、職業教育、キャリア教育、専門性、組織内プロフェッショナル
【高校生・大学生のためのブックガイド】
児美川孝一郎 (2023)『キャリア教育がわかる』誠信書房
平沼 高・新井吾朗 (2008)『もうひとつのキャリア形成』職業訓練教材研究会
本田由紀 (2009)『教育の社会的意義』筑摩書房
宮下 清 (2001)『組織内プロフェッショナル』同友館
宮下 清(2018)『働き方改革をすすめる「ホワイトカラー資格」』中央経済社


