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教員リレーエッセー第1回『社会に対する信頼と会計』


 これから大学に進学する高校生や,今本学で学んでいる大学生は,大学に何を期待しているでしょうか。大学には様々な社会的機能がありますが,その一つに社会的移動を起こす機能があります。社会的移動とは,いろいろな考え方がありますが,典型的には長野県菅平高原の野菜農家に生まれて,長野県立大学に進学した君が,東京都渋谷区のIT企業に就職するようなことを言います。つまり,大学を通過することで,菅平から渋谷への地域移動と,親の1次産業の自営業から3次産業のホワイトカラーへと職業分類の世代間移動を起こすこととも言い換えることができます。

 このような社会的移動を扱った著作に,吉川徹さんの『学歴社会のローカル・トラック』があります。本書は,島根県のとある公立高校の生徒たちが卒業後,どのような社会的移動を経験したか,丁寧に調査されています。特に一人一人へのヒアリング調査は,ノンフィクション小説のように読み応えがあります。
衣川 修平 准教授
九州大学大学院経済学研究科博士課程修了 博士(経済学)
専門は財務会計・会計理論
福島大学経済経営学類准教授などを経て現職

 このような移動を経験するとき,私たちは先行するロールモデルや,並走する仲間を探しつつ不安な漂流を続けます。その時に大きな役割を果たすのが「信頼」です。私たちは自分が抱える不安やリスクを,周囲の人々や環境と信頼関係を取り結ぶことで,小さくすることができます。本学が1年生の全寮制を採用しているのも,このような信頼に基づくネットワークを仲間たちと形成して欲しいからです。このようなネットワークは社会的資本の一つと言え,皆さんの一生の無形の財産になるはずです。

 さて私たちは,このような信頼できる仲間を作ることが,今後の人生でも最重要ポイントであると言えるでしょうか。ある点ではそうであるとも言えますし,別の点ではそうとも言えないところがあります。社会人として働き始めると,多くの人は学生時代とは表情が一変します。彼/彼女たちに何が起こるのでしょうか。

 社会で働くにあたっての大きな特徴は,よく知らない親しくもない人と協働する点にあります。市場ではさらに,顔と顔を突き合わすことなく取引がなされることさえあります。ここでは「信頼できる仲間」と言ったものはあまり上手く機能しません。外国との取引などは典型でしょう。親しくもない人同士で信頼をもって取引するためには,特別な仕組みが必要です。つまりその「信頼」とは,皆さんが寮生活でface to faceで培った「信頼」とは異なるものとなります。山岸俊男さんは,前者の市場で機能するようなものを信頼,後者のface to faceで培われるようなものを安心と呼んで,使い分けています。私の専門は会計学なのですが,会計は,前者の意味での信頼を作り出す機能を持っていると考えています。会計報告をすることで知らない人(組織)同士がお互いを信頼し,取引したり共に働いたりできるようになるわけです。

 皆さんは未だ社会で働いていないわけですから,会計に馴染みがなく,興味がないのは当然かもしれません。しかしこの不信と不安に満ちた世の中を信頼しうるものに変えるために,一緒に会計学を大学で勉強してみませんか。また会計以外にも社会の信頼を支える様々な制度があります。それを探してみましょう。
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【学んだ専門用語】
社会的移動,社会的資本,協働,信頼

【高校生・大学生のためのブックガイド】
吉川徹(2001)『学歴社会のローカル・トラック』世界思想社
吉川徹(2019)『[新装版]学歴社会のローカル・トラック』大阪大学出版会
山岸俊男(1999)『安心社会から信頼社会へ』中公新書