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教員リレーエッセイ ― 新年理事長編 ― 『本学に興味がある高校生の皆さんへ』


【本学に興味がある高校生の皆さんへ】
 
 公立大学法人長野県立大学理事長の佐藤です。

 まずこれからこのエッセイに目を通そうという、高校生の皆さんに感謝します。全国に800以上ある大学の中からユニークな特色をもつ長野県立大学に興味を抱き、こうしたエッセイまで読もうという好奇心、向上心、積極的姿勢は本当に素晴しい。それだけで前途有望というべきでしょう。
 私は2024年秋に長野県立大学の理事長に就任しましたが、その数か月前までテルモ株式会社という医療機器企業で社長CEOを務めておりました。アカデミア出身の学長とは別に、民間企業出身の人間をヘッドに戴くところにも長野県立大学の一つの特色があります。

長野県立大学キャンパス内にて

 では、なぜビジネスの世界で育った私が長野県立大学の仕事をお引き受けしたのか?
 第一に、本学が掲げる「リーダー輩出」「地域イノベーション」「グローバル発信」という3つの使命に共鳴したこと。
 第二に、本学が実施している「2年次海外研修」「英語集中プログラム」「1年次全寮制」のようなユニークな取り組みに「攻めの姿勢」を感じたこと。
 最後に、本学が特にフォーカスしている「グローバルマネジメント」、「食健康」、「こども」といったテーマはアカデミア特有の概念ではなく、私自身経営を通じて必死に取り組んできたことでもあります。その意味で私の経験が若い皆さんにもきっと役立つと思えたからです。加えて、21世紀の難しい環境において新しく4年制大学を設立した長野県の志に大きく心を動かされたからです。
 なかでも「地域からグローバルへ」という発想は私には非常に面白いものとして映りました。司馬遼太郎の小説「竜馬がゆく」の時代背景は幕末ですが、主人公の坂本龍馬は土佐藩を脱藩して江戸に上り勝海舟と出会うことで「世界は広い」と知り、開国・世界交易の道を志します。同じく同時代人我らが佐久間象山も松代藩に生まれながら国を憂いつつ西洋文明に興味を抱き、その吸収に血眼になった人間です。彼らが今の世にあれば地域から一体どんな世界を夢見ただろうか?そんな連想を抱きました。
 豊かで柔らかい感性をもつ大学生時代にグローバルな風に触れる、そして世界の多様性に関して学ぶ機会をもつことは、たとえ日本の地域社会に暮らすにしても大きな財産になると私は確信します。21世紀の社会は、どこの地域にいても世界へのアクセスが可能であり、しかも海外の影響を全く受けずに生きることは難しい時代です。だからこそ皆さんが新しい世界を知り、グローバルな視点を学ぶお手伝いをしたいというのが私の本音なのです。
 しかし、私も初めからグローバル人材だったわけではありません。東京に生まれ育ち、日本の大学で学びました。東京で大学生活を過ごした1980年代前半はグローバル化前夜とも言える時代でしたが、自分がグローバル人材にならねばといった切迫感は全くなくて、英語の勉強にも正直あまり身が入りませんでした。ところが大学を卒業して入社1年目の年度末に会社の上司から米国留学への意思を訊かれて、思わず「はい」と答えたことから海外への扉が開かれました。
 実際、その後懸命に留学準備をして25歳の時には企業派遣という形で米国のビジネススクールへ入学しました。米国だけでなく世界各国から集まる同世代の若者たちと同じ教室で机を並べて学ぶ、チームを組んでプロジェクトに取り組む、金曜の夜にはパーティーを思う存分楽しむ、休みには米国人学生の実家まで泊まりに行くなどの経験は思い返しても刺激的な体験で人間としてひと回り成長する機会になりました。
 30代には海外赴任、その後転職して外資系コンサルティングを経験して、40代でテルモに入社しました。そうして、何の因果か2017年にテルモの社長CEOになりました。テルモは日本企業ながら約8割が海外の従業員、売上も8割近くが海外ということで想像以上にグローバル企業だったので、社長時代はグローバル化という課題を一日たりとて忘れた日はありません。

テルモ社長在任中、海外事業所のあるアルゼンチンにて(中央)

 海外企業との契約交渉、海外子会社のトラブルシューティング、海外オペレーションの機構改革など、グローバル化に関する仕事はいずれもヘビーで気力、体力を使います。英語力のハンデを負いながらもリーダーシップを取るためには人間力も必要です。日本企業のグローバル化は試練の連続で本気でやればやるほど消耗しました。それでも、なぜグローバル化の仕事に挑戦するかと言えば、苦労を補って余りあるやりがいもあるからです。
 特に、世界中で働く現地従業員たちとの交流はグローバル化の神髄ともいうべき経験でした。アメリカは東海岸からフロリダ、ミシガン、コロラド、カリフォルニア、中南米ではプエルトリコ、コスタリカ、アジアに転じますと中国では北京、杭州、ベトナム、フィリピン、インド、欧州ではベルギー、英国スコットランド、世界中の工場を行脚し、現地の人々と対話し、議論し、時には一緒に食事をし、酒も飲みかわしました。世界の多様な人々に日本を理解してもらい、日本的経営をグローバル仕様に進化させかつ全世界を結束させる仕事は大変ながらもやりがいのある仕事でした。そして、何より楽しかったのです。
 英語には“Variety is the spice of life” という言葉があります。多様性は人生のスパイス(調味料)という意味です。いろいろな国の人と出会い、様々な文化を知ることは人生に彩りを添え豊かで楽しいものにしてくれます。世の中では経済的動機だけがグローバル化のドライバーと言われますが、人間をベースに考えますと楽しさ・好奇心こその究極のモチベーションではないでしょうか。
 隣国との軋轢や、世界の紛争、米国の分断など世界を取り巻く混沌たる情勢を見ていると目を塞ぎたくなって日本国内にだけ関心を向けたくなる若い皆さんの気持ちはよく分かります。しかし、ニュースに出てくる政治とは別の世界が厳然と存在します。文化・慣習、そして人間も実に多様です。ただ一緒に仕事をすれば国や文化は異なってもひとり一人はみな我々と変わらない人間なんだということも分かってきます。本来なら知り合うこともない異国の人間を深く知ること自体奇跡的なことに思えてきます。
 現在、日本でパスポートを持つ人は17%と言われ、G7(先進国)の中で最低です。インバウンドの旅行者があふれかえる一方で国民は内向きになりつつある現実があります。確かに海外の情報は簡単に手に入る時代です。しかし、人と文化に直接触れることは残念ながらSNSやYouTubeには限界があります。「百聞は一見に如かず」これはいまなお正しいメッセージです。インバウンドで大挙して日本へ来る外国人もアニメだけでは知りえない秘密を求めて日本を訪れます。現地に降り立って感じる匂いや体感は画像では知りえないものです。人間的な接触も含めて世界と触れ合うことを恐れない人間になってほしい。これが私たちの願いです。

アメリカ留学時代の1枚(中央)

 最後に英語についても一言述べます。長野県立大学には最初の2年間に英語集中プログラムがあります。英語が大好きな人、これまで英語をもっとうまくなりたかったのにその機会がなくて今度こそという人、いろんな人が本学には集まります。
 20代前半は外国語の習得にとって人生で残り少ないチャンスです。人間の言語脳は硬直化していくので外国語を高齢になって習得することは至難のわざだからです。ですから若い皆さんには大学時代に英語を使えるレベルにまであげてほしいと思います。その上で、語学は最終的にはやはりツールです。日本語が話せるから日本人すべてと通じ合えるとは限らないのと同じです。世界は一様ではなく、各地域文化にはそれぞれのタイプがあってコミュニケーションの型も異なります。そのような「異文化理解」のテーマを大学で学ぶことも可能ですし、海外留学体験や日本に来ている留学生との接触から付き合い方を実践的に学ぶことも可能です。
 将来の職業選択に係わらず本学での実践・学習・体験は皆さんに大きな力と可能性を与えることになると信じます。ぜひ好奇心にあふれ、少しでも視野を広げたいと思う諸君はこのキャンパスで学んでいただきたいと思います。

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【筆者】
佐藤 慎次郎 理事長

東京大学経済学部 卒業
デューク大学経営大学院 経営学修士(MBA)取得
民間企業で会社の運営や事業計画の策定に携わる
医療機器メーカー・テルモ株式会社では、執行役員や取締役を経て、CEO(最高経営責任者)を務める
企業での経験を活かし、経営や組織運営の知見を積む
現在は公立大学法人 長野県立大学の理事長として、大学運営や地域との連携に取り組む

【参考図書】
1、「竜馬がゆく」司馬遼太郎著、文春文庫
2、「異文化理解力—相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養」エリン・メイヤー著、英治出版