「なぜ「長野県」で、ソーシャル・イノベーションなのか」渡邉 さやか准教授
ソーシャル・イノベーション研究科准教授 渡邉 さやか
2008年をピークとして、日本の人口減少が進んでいる。2024年の年間出生数は遂に70万人を切り、全ての都道府県で15歳以下の若者の割合は減り続けている。そんな日本の全国人口減少率以上に、長野県の人口減少率は大きい。特に、若者と女性の人口減少が著しく、これは長野県以外もほとんどの地域で重要課題となっている。
一方、世界で見ると人口は増え続けており、2022年に世界の人口は80億人を超えている。IMFが2025年4月に発表したGDP(国内総生産)ランキングにおいて、日本は2025年中にはGDP世界5位になる見込みとされた。一人当たりGDPは、世界38位である。世界の多くの国においては、人口増加が続き、経済成長が続いている。
45年以上前となる1979年に、社会学者エズラ・ヴォーゲル教授が「Japan as Number One」を出版した時代は、もはや若者は知らない過去である。人口減少が進む、特に日本の地方地域において、私たちは今何を考えたら良いのだろうか。
一方、世界で見ると人口は増え続けており、2022年に世界の人口は80億人を超えている。IMFが2025年4月に発表したGDP(国内総生産)ランキングにおいて、日本は2025年中にはGDP世界5位になる見込みとされた。一人当たりGDPは、世界38位である。世界の多くの国においては、人口増加が続き、経済成長が続いている。
45年以上前となる1979年に、社会学者エズラ・ヴォーゲル教授が「Japan as Number One」を出版した時代は、もはや若者は知らない過去である。人口減少が進む、特に日本の地方地域において、私たちは今何を考えたら良いのだろうか。
「女性」という視点と地方創生
残念ながら、私はヴォーゲル教授が説いた「Japan as Number One」であった日本を体感としては知らない。長野県の田舎で生まれ育ち、早く田舎を出て日本の都会や世界に出ていきたいと願いながら、幼少期を過ごしてきた。そんな私にとっては、高校を卒業して長野県を離れた後、長野県に戻って生活することは選択肢にすらなく、30代までを過ごしていた。
個人として、人口減少と高齢化社会が進む危機感を突きつけられたと感じるのは、2011年に起こった東日本大震災が大きい。まさに、2008年をピークに日本の人口減少が進んでいるなかで、被災地域において、日本の地方における課題が様々露呈したのを目の当たりにしたのだ。当時ちょうど30歳であった私は、グローバリゼーションと資本主義による世界の経済・社会の構造的歪みによる課題だけでなく、自分が拠点をおいて暮らしている日本国内の課題を直視しなくてはならないと、地球から突きつけられたように感じた。
ジェンダーに関わる課題も、2011年に突きつけられた課題の1つである。
東日本大震災の被災地域において「女性」という視点は欠如していた。意思決定層に女性が少なく、女性の声を聴こうという動きもあまり多くなかった。災害直後の地域のニーズ調査に入った外国籍の国連関係者が、地域に住む女性へのヒアリングをしようとした時に、女性に話を聞く必要がないという発言が地域からあがり驚いたという話を聞いた。まだ、世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダー格差指数の存在を、多くの日本人が知らなかった頃である。
その後2015年から始まった政府の地方創生1.0において、「女性」という視点は非常に限定的であった。しかし、今年発表された地方創生2.0においては、骨子の一つとなっている。男女共に変化してきているライフコースにおいて、結婚・出産・子育てに限定されず、女性の視点というのが求められ、その視点なくして地方創生はないということがようやく国によって認知されるようになっている。
個人として、人口減少と高齢化社会が進む危機感を突きつけられたと感じるのは、2011年に起こった東日本大震災が大きい。まさに、2008年をピークに日本の人口減少が進んでいるなかで、被災地域において、日本の地方における課題が様々露呈したのを目の当たりにしたのだ。当時ちょうど30歳であった私は、グローバリゼーションと資本主義による世界の経済・社会の構造的歪みによる課題だけでなく、自分が拠点をおいて暮らしている日本国内の課題を直視しなくてはならないと、地球から突きつけられたように感じた。
ジェンダーに関わる課題も、2011年に突きつけられた課題の1つである。
東日本大震災の被災地域において「女性」という視点は欠如していた。意思決定層に女性が少なく、女性の声を聴こうという動きもあまり多くなかった。災害直後の地域のニーズ調査に入った外国籍の国連関係者が、地域に住む女性へのヒアリングをしようとした時に、女性に話を聞く必要がないという発言が地域からあがり驚いたという話を聞いた。まだ、世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダー格差指数の存在を、多くの日本人が知らなかった頃である。
その後2015年から始まった政府の地方創生1.0において、「女性」という視点は非常に限定的であった。しかし、今年発表された地方創生2.0においては、骨子の一つとなっている。男女共に変化してきているライフコースにおいて、結婚・出産・子育てに限定されず、女性の視点というのが求められ、その視点なくして地方創生はないということがようやく国によって認知されるようになっている。
地方における希望の再生と「アントレプレナーシップ」
ヴォーゲル教授がJapan as Number Oneと出版された頃、世界で日本企業は強かった。しかし日本企業が世界で圧倒的に強い時代は変わり、国は成長戦略の1つとして、起業を促進してきた。アベノミクス成長戦略の1つとして、開業率を倍増させることが目標として掲げられてから10年が経つ。
Global Entrepreneurship Monitorによると、日本の起業活動(Total Entrepreneurship Activity:TEA)は他国と比較すると低いままである。失敗に対する意識や、自分のスキルへの自信などが、日本は男女共に低いとされる。また、日本財団が行う18歳意識調査を見ても、日本の若者は「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」や「自分には人に誇れる個性がある」と回答した割合が少ない。さらに日本国内における調査を見ると、長野県の18歳は「自分には人に誇れる個性がある」と回答した割合が全国最下位である。
アントレプレナーシップの研究では、男女共に自己効力感が起業に与える影響は正であるとされる。必ずしも自分でビジネスを起こす狭義の起業に限らず、自らの力で国や社会を変えていけるという意識を持って行動できる人が増えることは、この国の未来にとって重要である。
東京大学社会科学研究所で、2005年から希望学の研究が進められている。希望学を牽引する玄田有史教授は、希望とは「行動することにより何かが実現することを願う気持ち」であるとしている。これは、自らの力で社会を変革しようとするアントレプレナーシップにも通ずる。玄田教授は、地方における希望の再生には「ローカル・アイデンティティの再構築」「地域内外のネットワークの形成」「希望の共有」の3つが必要であると説く。そしてこれらを貫くキーワードは、「対話」にあるとしている。人口減少が急速に進む地方地域において、私たちは課題に真摯に向き合う中で、未来を悲観するのではなく、希望を再生していかなくてはならない。
Global Entrepreneurship Monitorによると、日本の起業活動(Total Entrepreneurship Activity:TEA)は他国と比較すると低いままである。失敗に対する意識や、自分のスキルへの自信などが、日本は男女共に低いとされる。また、日本財団が行う18歳意識調査を見ても、日本の若者は「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」や「自分には人に誇れる個性がある」と回答した割合が少ない。さらに日本国内における調査を見ると、長野県の18歳は「自分には人に誇れる個性がある」と回答した割合が全国最下位である。
アントレプレナーシップの研究では、男女共に自己効力感が起業に与える影響は正であるとされる。必ずしも自分でビジネスを起こす狭義の起業に限らず、自らの力で国や社会を変えていけるという意識を持って行動できる人が増えることは、この国の未来にとって重要である。
東京大学社会科学研究所で、2005年から希望学の研究が進められている。希望学を牽引する玄田有史教授は、希望とは「行動することにより何かが実現することを願う気持ち」であるとしている。これは、自らの力で社会を変革しようとするアントレプレナーシップにも通ずる。玄田教授は、地方における希望の再生には「ローカル・アイデンティティの再構築」「地域内外のネットワークの形成」「希望の共有」の3つが必要であると説く。そしてこれらを貫くキーワードは、「対話」にあるとしている。人口減少が急速に進む地方地域において、私たちは課題に真摯に向き合う中で、未来を悲観するのではなく、希望を再生していかなくてはならない。
大学院という場は、知識やスキルを学ぶだけでなく、自己と他者との対話の場でもある。対話を通じて、まさに地方における希望の再生に必要な3つを持ち、拡げていく。人口減少という現実に向き合う長野県という土地で、社会を変革するイノベーションに向き合うからこそ見えてくることがあるはずだ。本研究科を通じて、自分自身と社会に真摯に向き合い、より良い未来を創造する力を育むこと。仲間と共に考え、行動するための思想と思考を身につけること。研究科の一教員として、大学院での時間を通して、そうしたことを得ていただけると良いなと願っている。
授業の一例(塩尻SUNABAでのワーク)
授業の一例(黒姫童話館でのワーク)
(参照)
『Global Entrepreneurship Monitor』https://www.gemconsortium.org/
『International Monetary Fund, World Economic Outlook Database』https://www.imf.org/external/datamapper/datasets/WEO
玄田有史(2010)『希望のつくり方』岩波新書
内閣官房, 『日本列島改造論 ― 地方創生2.0の比較表』https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_chihousousei/pdf/20250613_hikakuhyou.pdf
日本財団, 『18歳意識調査』 https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/eighteen_survey
『Global Entrepreneurship Monitor』https://www.gemconsortium.org/
『International Monetary Fund, World Economic Outlook Database』https://www.imf.org/external/datamapper/datasets/WEO
玄田有史(2010)『希望のつくり方』岩波新書
内閣官房, 『日本列島改造論 ― 地方創生2.0の比較表』https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_chihousousei/pdf/20250613_hikakuhyou.pdf
日本財団, 『18歳意識調査』 https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/eighteen_survey

【著者】
渡邉 さやか 准教授
渡邉 さやか 准教授
外資系コンサルティング会社を経て独立。起業家として被災地での事業開発に取組む。その他、アジア女性社会起業家ネットワーク構築や国内外での女性起業支援プロジェクト等を牽引。アジア・アフリカ・中東で多数のSDGs ビジネス支援・官民連携プロジェクトに貢献。複数の社会起業・非営利組織などの経営にも携わる。
国際基督教大学 学士(教養・アジア研究)、東京大学大学院 修士(国際貢献)。
国際基督教大学 学士(教養・アジア研究)、東京大学大学院 修士(国際貢献)。
