「イノベーションとアート・哲学・虚数(数学)」大室 悦賀教授
ソーシャル・イノベーション研究科教授 大室 悦賀
近年、多くの企業で企業内哲学者(インハウス・フィロソファー)を雇用する動きが顕在化しています。Googleでは哲学の博士号をもつD.ホロヴィッツが、パーソナライズ機能やプライバシーの問題などに関わる開発プロジェクトを主導していたことが、いくつかの海外メディアで報じられたのです。アップルで著名な政治哲学者J.コーエンがフルタイムで雇用されました。彼が何をしているのかは取材拒否のため明かされていませんが、「アップル・ユニバーシティー」という社内向け教育機関に配属されたことから、政治哲学的な視点での助言や研修などで活躍してきたことが予想されます。これらの動きは法的支配から思考による支配が進んでいく兆候とも指摘されています。
1具体的には次のような3つのタイプがあるとされています。1つ目はガバナンス、企業統治や経営陣の意思決定に作用する哲学者。2つ目は哲学対話などの研修を通じて、主に個別の現場で働く従業員に哲学的観点や、「哲学する」ことの集団的経験をもたらす哲学者です。3つ目は、いわばその中間的な立ち位置。自社について研究し、企業理念を構造的に明らかにしたり、それを従業員たちも理解できるように伝えたり、また単に「上から」説得するようにするのではなく、従業員自身にもその理念についてちゃんと思考し問うてもらう機会を提供したりする「コンサルタント」に近い哲学者です。2このようにビジネスと哲学の関係が増加しています。
1具体的には次のような3つのタイプがあるとされています。1つ目はガバナンス、企業統治や経営陣の意思決定に作用する哲学者。2つ目は哲学対話などの研修を通じて、主に個別の現場で働く従業員に哲学的観点や、「哲学する」ことの集団的経験をもたらす哲学者です。3つ目は、いわばその中間的な立ち位置。自社について研究し、企業理念を構造的に明らかにしたり、それを従業員たちも理解できるように伝えたり、また単に「上から」説得するようにするのではなく、従業員自身にもその理念についてちゃんと思考し問うてもらう機会を提供したりする「コンサルタント」に近い哲学者です。2このようにビジネスと哲学の関係が増加しています。

図1 クレプスサイクルモデル3
このようなビジネスと哲学の関係は、イノベーションとの関係においても重要となっています。図1は現在広く使われているイノベーションモデルで、その特徴は創造の軸(アート)、思考の軸(サイエンス)、実践の軸(エンジニアリング)、行動の軸(デザイン)という4つの循環と、着想というアイデア創出とそれをイノベーションとして成立させる3つのプロセスをもつところにあります。特に近年注目されているアート思考を着想に挿入しているところです。
しかしながら、直感や見えないモノを捉えるという前提をおくならば、アート思考のみならず、哲学や数学、そして感覚を優先する身体性思考 4(図1に赤字で追加した部分も) というものも着想をえるために使えます。特に創発・着想は、従来のような客観的・言語化可能なモノではなく、見えていないモノや言語化できていないモノの中にあると考えられるようになりました。
しかしながら、直感や見えないモノを捉えるという前提をおくならば、アート思考のみならず、哲学や数学、そして感覚を優先する身体性思考 4(図1に赤字で追加した部分も) というものも着想をえるために使えます。特に創発・着想は、従来のような客観的・言語化可能なモノではなく、見えていないモノや言語化できていないモノの中にあると考えられるようになりました。
ここで注目すべきは、多くのスマホやPCなどではツールとして使われますが、我々の社会においては使われていない虚数(i:二乗すると−1となる数)です。我々の世界では主観的、非言語的、かつ言葉で的確に説明できないものを指しています。従来はこれらを無視し、客観的、科学的、数字といったものが優先されてきました。つまり確実な見える世界のみをビジネスは扱ってきたということです。しかし、言葉や対話は単に言葉の羅列ではなく、そこに主観的な領域を付属させることによって、説得力あるものに変わっていくのではないでしょうか。つまり我々は意識せずとも、虚数領域(虚部)を日常生活の中で使っています。一方でビジネスは極力これを廃する事になってしまっているため、イノベーションが起きないと考えられます。

図2 実部・虚部・反界
そこで図2をご覧頂ください。これは数学のリーマン平面と言われるモノをつかって客観的な世界(実部)と主観的な世界(虚部)、そして捉えられていない世界(反界:水色)を構造化したものです。特に虚部は言語化できない世界を表し、図2にあるようにワクワク/美しさ/おもてなしなど感覚としては捉えられますが、うまく言語化できない世界存在しています。図1の「着想を得る」は、哲学、アート、身体性を使って捉え、実部に変換することでイノベーションが創発される1つ目のルートを明示できます。さらに、図2の下部は感じることもなく全く見えない世界を表していますが、そこを捉えている人々がいます。それが稀代のイノベーターと言われる人々でしょう。彼らは「結果がある、結果がおりてくる、聞こえてくる」などの表現を使って、その存在を実部に変換する2つ目のルートも存在しています。これらは、数学的な思考方法を使うことで論理的に説明できるところまで来ていますが、実際にそれを実行できるかというと、それは別の話です。そこはこれまでの経験や思考習慣というフレームを認知することを意識した行動でしか、そこは可能になりません。日々の生活で今ここを意識しながら行動することです。そこの部分ができて始めてクレプスサイクルの活用が可能になって、イノベーションが創発できる。つまりイノベーションとはあまり関係ないアート・哲学・数学というツールが関係してくると言うことを理解するとそこへのルートがまったく別物になってきます。

図3 大学院カリキュラム
ここで説明した事を実装するために図3に示すような大学院のカリキュラムとして設計しています。図2のクレプスサイクルでは、「着想を得る」ことと同時に、それらを既存の知識から解釈・類推(サイエンス)し、それを具体的なモノやサービスに落とし込み(エンジニアリング)、市場に投入する差異の戦略やマーケティングが必要になることを示しています。本研究科では、着想を得ることに中心に置きつつ、その他の3つのプロセスもMBAで求められる要素をつかって学べるようになっています。
1 https://toyokeizai.net/articles/-/718734?fbclid=IwAR13Fnd-0Wc4_8aOsrim2X74A4BMOWIHG8V-e3rXUdYxE2VV5BFBXzLNO1c
2 https://workmill.jp/jp/webzine/in-house-philosopher-20240806/
3 Neri Oxman(2016), “Age of Entanglement,” Journal of Design and Science.
4 大学院では、このような理由から哲学思考、アート思考、システム思考などの科目を設置している。
2 https://workmill.jp/jp/webzine/in-house-philosopher-20240806/
3 Neri Oxman(2016), “Age of Entanglement,” Journal of Design and Science.
4 大学院では、このような理由から哲学思考、アート思考、システム思考などの科目を設置している。

【著者】
大室 悦賀 教授
専門分野はソーシャル・イノベーション。現在はイノベーションアイデアの創発を数学や哲学などをもとに研究し、それを可能にする思考方法などを教授している。著書には『サステイナブル・カンパニー入門』学芸出版社、『ソーシャル・ビジネス・ケース』中央経済社、『ソーシャル・イノベーション』NTT 出版などがある。
大室 悦賀 教授
専門分野はソーシャル・イノベーション。現在はイノベーションアイデアの創発を数学や哲学などをもとに研究し、それを可能にする思考方法などを教授している。著書には『サステイナブル・カンパニー入門』学芸出版社、『ソーシャル・ビジネス・ケース』中央経済社、『ソーシャル・イノベーション』NTT 出版などがある。
