グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム >  研究・地域連携 >  地域連携シーズ集 >  捨てられる「酒かす」を資源に再生したい。 地域との協働研究・開発で醸す、発酵県のポテンシャル

捨てられる「酒かす」を資源に再生したい。 地域との協働研究・開発で醸す、発酵県のポテンシャル


〈健康発達学部 食健康学科 塩屋 幸樹 准教授〉

長野県立大学が目指すソーシャルイノベーション。その実現には、理論と実践の両輪が欠かせません。本学には、地域に深く入り込むフィールドリサーチと、そこから得た知見を地域に還元する実践の双方に取り組む、個性豊かな教員が数多くいます。

一方で、教員が何を考え、どのような思いで研究や実践に向き合っているのかは、必ずしも見えやすいとは言えません。

そこで、教員に最も近い存在である長野県立大学の学生が、各学部の教員に直接インタビューを行いました。地域と協働しながら、どのようなソーシャルイノベーションを生み出そうとしているのか。その取り組みと思いを、学生の視点から掘り下げていきます。

本記事では、健康発達学部食健康学科 塩屋 幸樹准教授のインタビューをお届けします。


インタビュー日:2025年12月23日
聞き手・書き手: 原 真彩(長野県立大学健康発達学部食健康学科3年 学生コーディネーター)
聞き手・編集:北埜 航太(長野県立大学 ソーシャル・イノベーション創出センター 地域コーディネーター)

===========================================================

捨てられる酒かすを、価値ある資源に再生

──まず最初に、現在取り組んでいる研究テーマについて教えてください。

ご存知のように長野県は、味噌の生産量が全国1位、酒蔵数も全国2位といった発酵文化の盛んな県ですが、発酵食品の多くは残渣がでます。私は特に酒製造の過程で生じる副産物、いわゆる酒類残渣の再利用を研究しています。

酒類残渣といえば、日本酒かすの他に焼酎かす、ワインの搾りかす(ワインパミス)、ウイスキーかすなどです。現在は主に飼料や肥料、一部のエネルギーに使われており、食品としての利用はまだ限られています。

──よく酒蔵が酒かすを販売していたりしますが、それだけでは利活用としては不十分なのでしょうか?

確かに、日本では昔から酒かすとして再利用してきた文化がありますが、販売されているものはごく一部なんです。中小規模の酒蔵では、余ってしまった酒かすの処理コストが大きな課題になっており、これらを「廃棄物」ではなく「価値ある資源」として再利用することを目指しています。そのために、今は基礎研究に力を入れ、酒類残渣が持つ、栄養価や身体へのポジティブな影響など、機能性の研究を進めています。

── 機能性研究では、どのような点を重視していますか?

基礎研究としては、残渣に含まれる成分の科学的な裏付けをしっかりと取ることが重要です。一方で、それだけではなく、現代の生活者が求める「おいしさ」「使いやすさ」「健康への期待」といった価値とどう結びつけるかも意識しています。

将来的には機能性表示食品も視野に入れ、成分量の充足や増強、特定機能に特化した設計など、差別化された食品開発につなげていきたいと考えています。

──確かに、酒かすが味わいや健康に良い影響があることがわかれば、もっと活用したい人は増えそうですね。

高野豆腐を海外マーケットへ売り込む。学生と企業の商品共創プロジェクト

──基礎研究の他に、地域と連携したプロジェクトなどには取り組まれていますか?

県内企業である、みすずコーポレーションと長野県信連(長野県信用農業協同組合連合会)から依頼をいただき、高野豆腐を使った新しいレシピ開発に取り組んでいます。意外と知られていないんですが、長野県は高野豆腐の生産量が全国トップ。その中でも、みすずコーポレーションさんは高野豆腐の生産で業界をリードする会社なんです。

──知りませんでした!なぜ高野豆腐だったのでしょうか?

保存性が高く、植物性たんぱく源でもある高野豆腐は、近年話題になっているプラントミート(植物性代替肉)の潮流とも相性が良い食品です。また、高野豆腐は軽量で保存性が高く、調理も簡単なため、海外展開との親和性が高い食品だと感じています。特に和食や植物性食品への関心が高まる中で、レシピとセットで提案することで、海外市場でも受け入れられる可能性があります。

長野県立大生にレシピを応募していただき、現代のライフスタイルに合った使い方を学生と一緒に考えています。

──学生が商品開発に関わることによって、企業にも学生にも双方にさまざまな気づきや学びがありそうですね。

そう思います。企業にとっては、ニーズを捉えづらい若者からの率直な声に触れる機会となり、若者向けマーケティングにつながります。学生にとっても、単なるレシピ開発ではなく、地域資源の価値を再発見し、社会にどう届けるかまでを考えてもらうので、就職前に実践的な経験を積んでもらえると思います。

学生を巻き込んで新たな高野豆腐の可能性を探るプロジェクトが行われた

「まずは“Yes”」のスタンスで広がった大分での協働研究

──まだ県立大に赴任されて、1年ほどということですが、その前にいらした大分・別府大学では、どのような研究に取り組まれていたのですか?

別府大学では、焼酎かすに注力して研究を行っていました。強い酸味を持つ液状の焼酎かすは、一般的には食用利用が難しいとされてきましたが、酢の代替としてマヨネーズに応用すると良好な結果が得られました。

そのほかにも、パンやクッキー、鍋料理などへの応用を試作しましたが、最終的な商品化には至らず、研究と実装の間にある難しさも多く実感しました。

──食品開発のほかにどのような研究をしていましたか?

ほかにも、食品としての応用可能性を探るだけでなく、動物実験による健康機能性評価も並行して行っていました。味や使いやすさだけでなく、科学的根拠に基づいた機能性を明らかにすることで、焼酎かすの新たな価値を見出すことを目指していましたね。

──別府大学では、発酵食品・加工食品地域協働研究センター長としても活動されていたそうですね。どのような地域連携をされていたのですか?

研究センターは、発酵食品製造や、食品分析、食品衛生、麹菌や酵母・乳酸菌などの微生物に関する技術相談や共同研究などの地域連携をおこない、地域貢献を目指す機関です。私はセンター長として、企業や地域からの相談を受ける窓口役を担っていました。

私自身が大切にしていたのは、「まずはYesで受ける」という姿勢です。すぐに研究につながらない相談であっても、一度受け止め、大学内外の人や技術をつなぐコーディネーターとしての役割を意識していました。研究と地域連携は本来対立するものではなく、むしろ相互に高め合えるものだと考えているので、地域連携は私にとっても新しい視点や気づきを得られる貴重な機会だと捉えています。

──塩屋先生は、研究者としての目線だけでなく、企業マーケティングや生活者ニーズまで考えた実用的な研究を行われているのが印象的ですが、大分での多くの企業連携のご経験が大きいのですね。

学生参画型の商品開発で、酒かすを塩麹のようにヒットさせたい

──長野県立大学で、今後特に力を入れたい研究は何ですか?

まず取り組みたいのが、先ほども触れた、酒かすの機能性研究と活用です。若年層では酒かすの認知や利用が低く、匂いや調理の難しさがハードルになっています。また、酒蔵で直販されることは多いものの、流通や商品形態が限定的で、日常的に使われにくいのが現状です。

そこで酒かすを、従来の食材ではなく「機能性調味料」として再定義し、使いやすさと健康価値を両立させた形で提案していきたいと考えています。

──酒かすには、どのような可能性があると考えていますか?

塩麹ってすごく流行ったじゃないですか。あれは、大分県にある老舗の麹屋さん、「糀屋本店」9代目の浅利妙峰さんが、低迷する麹の人気を取り戻そうと、江戸時代の文献から着想を得て、現代の生活に馴染むように再編集したことで全国でヒットしたんです。つまり、使いやすさと機能性を両立させた点がブームの背景にあります。酒かすにも同じ可能性があると考えています。

例えば、近年注目を集める睡眠などと機能性を結びつけた価値設計を行うことで、若年層や健康志向の層にも受け入れられる商品開発につなげられるのではないかと期待しています。

──若者向けのアプローチは、ゼミを持たれている塩屋先生ならではの強みですね。

研究と並行して、学生が酒や味噌づくりを体験できる学生参画型のプログラムもより多く実施したいですね。蔵開きへの参加や、米・麦・大豆の栽培から酒・味噌づくりまでを一年かけて体験することで、発酵を「知識」ではなく「実感」として学んでもらいたいです。

酒蔵や味噌蔵では世代交代や女性杜氏の増加が進んでおり、若者の感性や嗜好を知りたいという声も多く聞かれます。学生が関わることで、若年層の視点を地域に還元できるだけでなく、音楽や食イベントと組み合わせた新しい交流の形も生まれると考えています。

──学生参画型のプロジェクトにすることで、企業にとっては短期的には若者目線の商品開発、長期的には採用マーケティングにもつながるのですね。

一方で、学生は毎年入れ替わるため、プロジェクトの継続生には課題もあります。そこで、1年単位で完結する定例プログラムとして設計することで、運営の負担を軽減したいと考えています。

例えば、「米づくり→酒造り→試飲・提供」までを一つのサイクルとして毎年実施することで、無理なく続けられる仕組みを目指します。そういった取り組みを一緒に挑戦したい酒蔵さんがいらっしゃれば、ぜひ連携していきたいですね。

醸造研究所」を大学内に、地域に「産官学民連携エコシステム」を

──「大学内に“醸造研究所”を作りたい」という夢があるという話も伺いました。

そうなんです(笑)。これは学内で理解をいただくのにまだまだ時間はかかりそうですが、数年以内を目標に、日本酒・ワインの酒造試験免許の申請を行い、大学内に小スケールの醸造・研究環境を整備したいと考えています。

実験レベルで醸造ができる環境を整えることで、研究と教育の両面で発酵をより実践的に扱えるようにしたいんです。

──大学内で醸造できたらワクワクしますね!小スケール醸造では、どのような研究を想定していますか?

例えば、日本酒を自然栽培米と慣行栽培米で作った場合の栄養価や味わいなどの比較を、土壌微生物や水質の違いとあわせて検証する研究などが想定できます。

──こうした研究は、地域にどのように役立つのでしょうか?

酒蔵にとっては、大きな仕込みを行う前に、大学での検証結果を参考にできることがメリットになります。酒蔵などは大ロットでの醸造が一般的なので、1L程度の小ロット醸造で発酵過程や味の違いを比較することで、低リスク・低コストで原料選択や製法を判断する際の科学的な裏付けを提供できると考えています。

大学が「試す場」「確かめる場」となることで、酒蔵の意思決定を支援し、リスクを下げながら新たな挑戦ができる環境づくりにつなげたいと考えています。

──醸造を切り口に、新たな地域連携の形が生まれていきそうです。

はい。もっと様々な地域連携が考えられると思っています。現在、長野県内には発酵分野での優れた地域企業や研究者がたくさんいらっしゃり、それぞれが素晴らしい技術資産や知見を持っています。ただ、それらが十分に見える化されておらず、相談先が分かりにくいという課題があります。

そのため、第一歩として問い合わせ窓口となるプラットフォームの整備が必要だと感じています。

具体的には、発酵バレー構想や信州大学が持つ水研究、酒・ワイン副産物研究などと連動し、県内の大学・企業・研究者が緩やかにつながるエコシステムを形成したいと考えています。

個々の強みを持ち寄り、共同開発や実証研究につなげていくことで、長野全体の発酵研究・産業の底上げを目指したいです。

──最後に地域の方々にメッセージをお願いします。

発酵県である長野県は、私がこれまで取り組んできた研究との相性が良いと感じたことに加えて、県立大が、グローバルな視野を持った地域連携に力を入れていることから着任を決めました。まだ着任して一年程しか経っていませんが、今後は長野県内企業との連携をさらに広げていきたいと考えています。

そのために、無償相談を受け皿とし、他教員や外部分析機関とも連携しながら、対応できる範囲を広く設定しています。大学が地域にとって「相談しやすい存在」になることを目指していきたいです。

編集後記:学内に閉じない、ひらかれた研究スタイルが地域イノベーションの一歩に

今回のインタビューを通して、発酵や酒類残渣といった専門的な研究が、大学の研究室の中だけで完結するものではなく、地域の人や企業、学生と関わり合いながら形づくられていくものなのだと実感しました。

特に印象に残ったのは、塩屋先生が地域の方々に対して常に「まずは一緒に考えてみる」「まずは試してみる」という姿勢で向き合っていたことです。

研究の話を聞きながら、専門的な知識がなくても、地域の立場から気軽に相談し、新しい取り組みを始める余地があるのだと感じることができました。

大学で積み重ねられてきた基礎研究が、地域の課題や現場の声と結びつくことで、思いがけない広がりや次の可能性が生まれていく。そのプロセスを間近で感じることができたインタビューでした。