人も地域も自然も犠牲にしない。信州発「身の丈ビジネス」から考える、未来の商いモデル
〈大学院ソーシャル・イノベーション研究科 秋葉 芳江 教授〉
長野県立大学が目指すソーシャルイノベーション。その実現には、理論と実践の両輪が欠かせません。本学には、地域に深く入り込むフィールドリサーチと、そこから得た知見を地域に還元する実践の双方に取り組む、個性豊かな教員が数多くいます。
一方で、教員が何を考え、どのような思いで研究や実践に向き合っているのかは、必ずしも見えやすいとは言えません。
そこで、教員に最も近い存在である長野県立大学の学生が、各学部の教員に直接インタビューを行いました。地域と協働しながら、どのようなソーシャルイノベーションを生み出そうとしているのか。その取り組みと思いを、学生の視点から掘り下げていきます。
本記事では、長野県立大学大学院 ソーシャル・イノベーション研究科 秋葉 芳江 教授のインタビューをお届けします。
インタビュー日:2025年10月21日
聞き手・書き手: 久野 ひなか(長野県立大学グローバルマネジメント学部1年 学生コーディネーター)
聞き手・編集:北埜 航太(長野県立大学 ソーシャル・イノベーション創出センター 地域コーディネーター)
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一方で、教員が何を考え、どのような思いで研究や実践に向き合っているのかは、必ずしも見えやすいとは言えません。
そこで、教員に最も近い存在である長野県立大学の学生が、各学部の教員に直接インタビューを行いました。地域と協働しながら、どのようなソーシャルイノベーションを生み出そうとしているのか。その取り組みと思いを、学生の視点から掘り下げていきます。
本記事では、長野県立大学大学院 ソーシャル・イノベーション研究科 秋葉 芳江 教授のインタビューをお届けします。
インタビュー日:2025年10月21日
聞き手・書き手: 久野 ひなか(長野県立大学グローバルマネジメント学部1年 学生コーディネーター)
聞き手・編集:北埜 航太(長野県立大学 ソーシャル・イノベーション創出センター 地域コーディネーター)
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商いは机上だけでは成立しない。「実務家教員」というスタンス
──まず最初に、秋葉先生の研究内容について教えていただけますか?
私は自分のことを、あまり「研究者」だとは思っていません。どちらかと言えば、ずっと現場にいて、その延長線上で大学に関わっている「実務家教員」だという感覚です。
ビジネスプラン、価値創出、サステナブル経営について教えていますが、根底にあるのは「商いは机上だけでは成立しない」という、ごく当たり前だけれど重要な前提です。
理論やフレームワークも、現場で回ってはじめて意味が出る。そしてもう一つ、新しい価値を生み出せなければ、そもそも商いは始まらない。私はそこを一番大事にしています。
──「実務家教員」という立ち位置で活動を続けられているのはなぜでしょうか?
私自身、キャリアの大半をビジネスサイドで過ごしてきました。新規事業の立ち上げを何度も経験し、そのたびに「なぜこれはうまくいったのか」「なぜこれは失敗したのか」を、かなり痛みを伴いながら学んできました。
30年近く続ける中で、少しずつですが、「最低限ここは外してはいけない」というポイントや、「この考え方を持っていると、致命的な失敗は避けやすい」という観点が見えてきた。それを、今は方法論として整理し、伝えています。
──具体的に大学で教えられている内容はどんなものでしょうか?
大学学部で担当している「キュレーター概論」では、新しい価値をどうやって見つけ、どうやって立ち上げるのか、その“最初の一歩”を丁寧に扱います。価値創出できる柔軟な頭を養います。
また学部3年生以上が履修できる「ソーシャルビジネス・プランニング」では、架空でもいいから、自分自身でビジネスプランを毎学期1本つくってもらう。頭で理解するだけではなく、実際に手を動かすことで、初めて見えてくるものがあるからです。
私は自分のことを、あまり「研究者」だとは思っていません。どちらかと言えば、ずっと現場にいて、その延長線上で大学に関わっている「実務家教員」だという感覚です。
ビジネスプラン、価値創出、サステナブル経営について教えていますが、根底にあるのは「商いは机上だけでは成立しない」という、ごく当たり前だけれど重要な前提です。
理論やフレームワークも、現場で回ってはじめて意味が出る。そしてもう一つ、新しい価値を生み出せなければ、そもそも商いは始まらない。私はそこを一番大事にしています。
──「実務家教員」という立ち位置で活動を続けられているのはなぜでしょうか?
私自身、キャリアの大半をビジネスサイドで過ごしてきました。新規事業の立ち上げを何度も経験し、そのたびに「なぜこれはうまくいったのか」「なぜこれは失敗したのか」を、かなり痛みを伴いながら学んできました。
30年近く続ける中で、少しずつですが、「最低限ここは外してはいけない」というポイントや、「この考え方を持っていると、致命的な失敗は避けやすい」という観点が見えてきた。それを、今は方法論として整理し、伝えています。
──具体的に大学で教えられている内容はどんなものでしょうか?
大学学部で担当している「キュレーター概論」では、新しい価値をどうやって見つけ、どうやって立ち上げるのか、その“最初の一歩”を丁寧に扱います。価値創出できる柔軟な頭を養います。
また学部3年生以上が履修できる「ソーシャルビジネス・プランニング」では、架空でもいいから、自分自身でビジネスプランを毎学期1本つくってもらう。頭で理解するだけではなく、実際に手を動かすことで、初めて見えてくるものがあるからです。
新規事業の修羅場から、ソーシャルビジネスへ向かった理由
──ソーシャルビジネスを起業する前に、企業にも勤められていたそうですが、そこではどんな経験をされましたか?
新卒で大きな組織に入りました。そこで当時では珍しく、若手で女性ながら新規事業の立ち上げを任され、本当にゼロから取り組みました。英文の契約書を交わすところから始めて、何もないところに事業をつくっていく。正直、泣きながらやっていましたね。
新しい事業を立ち上げるというのは、想像以上にしんどいです。判断材料は少ないし、前例はないし、失敗すれば責任はすべて自分に返ってくる。それでもやらなければならない。その経験を通して、「事業をつくる」ということの現実を、骨身に染みて学びました。
──起業につながるような経験はありましたか?
印象深い出来事がありました。ある大規模システムの導入プロジェクトを担当していた時でした。クライアントの現場の方から、その部署ではシステム稼働後に熟練者が不本意な退職になる、ということをお聞きしました。システムは新しい付加価値を生み出すために導入するのに、そこに人(従業員)の幸福感が含まれていないというのはどういうことだろう、なんか違うんじゃないか。
私はそのとき、「これが良かったんだろうか」と深く悩み、「経営とは本来人を幸せにするためにあるはずだ」という思いを強くしました。そういった体験が後に「ソーシャルビジネス」と呼ばれる領域に近い仕事につながっていきました。
──合理的な経営と働く人の幸せの間にある矛盾に直面されたことが起業のきっかけになったんですね。秋葉先生が起業して感じたことはありますか?
起業経験を通して痛感したのは、「社会に新しい価値を生み出す」ということの難しさでした。一方で、「これは本当に必要だ」と言ってくれる人たちも、確かにいた。新しい市場を開拓するというのは、こういうことなのかと、身をもって学んだ経験でした。誰にでもあるような体験、例えば子供時代に心痛めた小さな体験を大人になっても忘れずに、そういう痛みを小さくするようなアクションを増やすことが新しい価値創出につながる。私が学んだことはそういうことでした。
新卒で大きな組織に入りました。そこで当時では珍しく、若手で女性ながら新規事業の立ち上げを任され、本当にゼロから取り組みました。英文の契約書を交わすところから始めて、何もないところに事業をつくっていく。正直、泣きながらやっていましたね。
新しい事業を立ち上げるというのは、想像以上にしんどいです。判断材料は少ないし、前例はないし、失敗すれば責任はすべて自分に返ってくる。それでもやらなければならない。その経験を通して、「事業をつくる」ということの現実を、骨身に染みて学びました。
──起業につながるような経験はありましたか?
印象深い出来事がありました。ある大規模システムの導入プロジェクトを担当していた時でした。クライアントの現場の方から、その部署ではシステム稼働後に熟練者が不本意な退職になる、ということをお聞きしました。システムは新しい付加価値を生み出すために導入するのに、そこに人(従業員)の幸福感が含まれていないというのはどういうことだろう、なんか違うんじゃないか。
私はそのとき、「これが良かったんだろうか」と深く悩み、「経営とは本来人を幸せにするためにあるはずだ」という思いを強くしました。そういった体験が後に「ソーシャルビジネス」と呼ばれる領域に近い仕事につながっていきました。
──合理的な経営と働く人の幸せの間にある矛盾に直面されたことが起業のきっかけになったんですね。秋葉先生が起業して感じたことはありますか?
起業経験を通して痛感したのは、「社会に新しい価値を生み出す」ということの難しさでした。一方で、「これは本当に必要だ」と言ってくれる人たちも、確かにいた。新しい市場を開拓するというのは、こういうことなのかと、身をもって学んだ経験でした。誰にでもあるような体験、例えば子供時代に心痛めた小さな体験を大人になっても忘れずに、そういう痛みを小さくするようなアクションを増やすことが新しい価値創出につながる。私が学んだことはそういうことでした。
100名超の卒塾生を輩出した「起業塾」が地域を耕す
──起業家だけでなく、研究の領域にも活動を広げたきっかけは何だったのですか?
起業とほぼ同時くらいに社会人大学院に入り、「ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)」という概念に出会いました。日本でおそらく初のアントレプレナー調査研究をした東京財団の報告書の中に、「社会起業家の特性として、生き方と働き方を乖離させずに合わせること」というふうに書かれていて。それがまさに当時私が意識していたことだったんですよね。
ほぼ同じ2000年ごろのタイミングで、「あんたみたいなことをやりたい。どうやったら会社立ち上げれるん?」っていう質問をいくつもいただくようになったんです。当時はまだソーシャルビジネスという言葉が世の中に出回っていない時代だったので、社会課題をビジネスの手法で解決するというニーズが世の中にあるんだということに気づきました。
そういった体験を通じて、生き方と働き方、人と自然、地域と経営などを切り分けないソーシャルビジネスの実践と研究に関わって、気づけば四半世紀が経っていました。
──そんな秋葉先生のご経験が反映されたプログラムの一つに、木曽エリアで開催されている「KISO起業塾」があると思います。これはどんな取り組みなのでしょうか?
地域で小さな商いでもいいから、事業を始めたいと思っている人に向けて、「どうすれば自分のやりたいことを形にできるか」を伝える場です。
起業家としての実践と、研究者やコンサルタントとして長年培ってきた起業支援の理論スキームを、ぎゅっと圧縮して、起業の初期段階で本当に必要な部分だけを3日間の集中講座という形にしています。主催は木曽地域振興局です。
参加者は本当に多様です。たぶん65歳を超えるシニアの方から20歳代の方まで、職業も背景もさまざまです。私の中では、年齢や性別はほとんど関係ありません。「やってみたい」という気持ちがあるかどうか、それだけです。
起業とほぼ同時くらいに社会人大学院に入り、「ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)」という概念に出会いました。日本でおそらく初のアントレプレナー調査研究をした東京財団の報告書の中に、「社会起業家の特性として、生き方と働き方を乖離させずに合わせること」というふうに書かれていて。それがまさに当時私が意識していたことだったんですよね。
ほぼ同じ2000年ごろのタイミングで、「あんたみたいなことをやりたい。どうやったら会社立ち上げれるん?」っていう質問をいくつもいただくようになったんです。当時はまだソーシャルビジネスという言葉が世の中に出回っていない時代だったので、社会課題をビジネスの手法で解決するというニーズが世の中にあるんだということに気づきました。
そういった体験を通じて、生き方と働き方、人と自然、地域と経営などを切り分けないソーシャルビジネスの実践と研究に関わって、気づけば四半世紀が経っていました。
──そんな秋葉先生のご経験が反映されたプログラムの一つに、木曽エリアで開催されている「KISO起業塾」があると思います。これはどんな取り組みなのでしょうか?
地域で小さな商いでもいいから、事業を始めたいと思っている人に向けて、「どうすれば自分のやりたいことを形にできるか」を伝える場です。
起業家としての実践と、研究者やコンサルタントとして長年培ってきた起業支援の理論スキームを、ぎゅっと圧縮して、起業の初期段階で本当に必要な部分だけを3日間の集中講座という形にしています。主催は木曽地域振興局です。
参加者は本当に多様です。たぶん65歳を超えるシニアの方から20歳代の方まで、職業も背景もさまざまです。私の中では、年齢や性別はほとんど関係ありません。「やってみたい」という気持ちがあるかどうか、それだけです。
──地域にはどんな変化がありましたか?
卒塾生で把握されているだけでも、木曽地域で20人弱が起業しています。人口規模を考えると、これはかなり大きな変化です。もちろん起業塾だけの成果ではありません。自治体や地域の取り組みとの相乗効果です。でも、確実に地域が耕されている感覚があります。たかだか7年です。でも、7年でここまで変わる。教育は、未来をつくる仕事ということを実感しています。
──長野県立大学と包括協定を締結している王滝村、そこで起業した「Rext滝越」も木曽での支援の関わりがあるそうですね。
そうですね。農家民泊やキャンプ場を経営している倉橋さんのRext滝越は、開学前にご支援に入った時からのご縁で、遠くから応援しながら、ずっと見させていただいてきています。災害からの経営危機も柔軟に乗り越えてきている、尊敬する方々です。
他にも、卒塾生ではなく研修に来てくださった方なんですけど、en-shoutenさん。あそこも素敵なビジネススタイルですよね。サステナブル系のセレクトショップであるen-shoutenさんは、開店する曜日を限定していて、閉めている曜日は、ご夫妻それぞれが作家としての創作活動のお仕事もされている。ビジネススタイルが、新しいです。他にも、無理しない「稼ぎ方」をしておられる起業者は多々おられます。みんな、楽しそうです。
卒塾生で把握されているだけでも、木曽地域で20人弱が起業しています。人口規模を考えると、これはかなり大きな変化です。もちろん起業塾だけの成果ではありません。自治体や地域の取り組みとの相乗効果です。でも、確実に地域が耕されている感覚があります。たかだか7年です。でも、7年でここまで変わる。教育は、未来をつくる仕事ということを実感しています。
──長野県立大学と包括協定を締結している王滝村、そこで起業した「Rext滝越」も木曽での支援の関わりがあるそうですね。
そうですね。農家民泊やキャンプ場を経営している倉橋さんのRext滝越は、開学前にご支援に入った時からのご縁で、遠くから応援しながら、ずっと見させていただいてきています。災害からの経営危機も柔軟に乗り越えてきている、尊敬する方々です。
他にも、卒塾生ではなく研修に来てくださった方なんですけど、en-shoutenさん。あそこも素敵なビジネススタイルですよね。サステナブル系のセレクトショップであるen-shoutenさんは、開店する曜日を限定していて、閉めている曜日は、ご夫妻それぞれが作家としての創作活動のお仕事もされている。ビジネススタイルが、新しいです。他にも、無理しない「稼ぎ方」をしておられる起業者は多々おられます。みんな、楽しそうです。

秋葉教授が創業期から伴走している倉橋さん。「人生をsurviveせよ」をテーマに長野県の最西端・王滝村を舞台に複数の事業を展開する
信州らしい「身の丈ビジネス」は、未来の商いモデル
──起業塾のように、地域における起業はいわゆるスタートアップのような、スケール(拡大)を目指す起業とは異なるように思えます。長野やローカルにおける起業の特徴についてはどうお考えですか?
私が長野に来て、一番注目したことはまさにそこです。長野には無理をせず、自分が心からやりたいこと、叶えたいことを軸に商いを立ち上げる人が結構おられる。それは、単に自分一人が得をするという話ではありません。地域にとっても意味のあること、たとえば「買い物に行くのが難しい人がいる」「病院に通いづらい人がいる」といった、身近な困りごとに目を向ける。そうした地域の課題と、自分のやりたいことをうまく重ね合わせていくのです。
百万人のユーザーを抱えるビジネスではないかもしれない。でも、数百人程度の利用者には確実に必要とされる。そうした規模感の事業を、背伸びをせず、手堅く立ち上げている人たちが、実は各地にたくさんいます。そこで、私はここ最近、こうした起業のあり方を「身の丈起業」とか「身の丈ビジネス」と呼ぶようにしています。
──「身の丈ビジネス」の特徴はどんなものでしょうか?
身の丈ビジネスには、いくつか特徴があります。
1.売上は数千万〜1億円未満。
2.従業員は1人〜数名、多くても10人以下。
3.出資者・経営者・労働者が同じ人(またはほぼ同じ人)。
特にこの3つ目の点の三位一体の構造が、とても重要なんです。
──出資・経営・労働を分けないことが、どういう良さにつながるのですか?
株式会社だと、株主と経営者と労働者が分かれていますよね。でも身の丈ビジネスでは、出資者と経営者と労働者が一緒の人物達が担ってるっていうとこがミソだと思うんですよね。働くのも自分たち、経営するのも自分たち、お金を出しているのも自分たち。全部自分たちに返ってくる。だから、へんなことができない。
今の社会はどこか、「これは仕事だから仕方ない」と言って、自分の心や倫理観を切り離しすぎていると思います。でも、自分・仕事・社会がつながっていれば、例えば、期限切れ材料で食品は作らないでしょう。自分の子どもが食べるって思ったら、絶対にそんなことしないですよね。
──たしかに、近年ではいき過ぎた資本主義やビジネスのあり方を問い直すような議論が多くされるようになっていますね。
もちろん株式会社は資本を集めるには素晴らしい仕組みです。 でも、利益を株主に還元したらあとはどうでもいい、という価値観は本当に正しいのか。「どれだけ株主に配当を回せるか」だけが物差しになると、会社は、社会は歪んでしまう。
私はずっとその現場を見てきたから、ここは力を込めて言いたい。単に「うちの会社だけ儲かったらいい」という経営者ではない人たちに、ちゃんと刺さるような地域との関りをしたい、というふうにはずっと思い続けています。
私が長野に来て、一番注目したことはまさにそこです。長野には無理をせず、自分が心からやりたいこと、叶えたいことを軸に商いを立ち上げる人が結構おられる。それは、単に自分一人が得をするという話ではありません。地域にとっても意味のあること、たとえば「買い物に行くのが難しい人がいる」「病院に通いづらい人がいる」といった、身近な困りごとに目を向ける。そうした地域の課題と、自分のやりたいことをうまく重ね合わせていくのです。
百万人のユーザーを抱えるビジネスではないかもしれない。でも、数百人程度の利用者には確実に必要とされる。そうした規模感の事業を、背伸びをせず、手堅く立ち上げている人たちが、実は各地にたくさんいます。そこで、私はここ最近、こうした起業のあり方を「身の丈起業」とか「身の丈ビジネス」と呼ぶようにしています。
──「身の丈ビジネス」の特徴はどんなものでしょうか?
身の丈ビジネスには、いくつか特徴があります。
1.売上は数千万〜1億円未満。
2.従業員は1人〜数名、多くても10人以下。
3.出資者・経営者・労働者が同じ人(またはほぼ同じ人)。
特にこの3つ目の点の三位一体の構造が、とても重要なんです。
──出資・経営・労働を分けないことが、どういう良さにつながるのですか?
株式会社だと、株主と経営者と労働者が分かれていますよね。でも身の丈ビジネスでは、出資者と経営者と労働者が一緒の人物達が担ってるっていうとこがミソだと思うんですよね。働くのも自分たち、経営するのも自分たち、お金を出しているのも自分たち。全部自分たちに返ってくる。だから、へんなことができない。
今の社会はどこか、「これは仕事だから仕方ない」と言って、自分の心や倫理観を切り離しすぎていると思います。でも、自分・仕事・社会がつながっていれば、例えば、期限切れ材料で食品は作らないでしょう。自分の子どもが食べるって思ったら、絶対にそんなことしないですよね。
──たしかに、近年ではいき過ぎた資本主義やビジネスのあり方を問い直すような議論が多くされるようになっていますね。
もちろん株式会社は資本を集めるには素晴らしい仕組みです。 でも、利益を株主に還元したらあとはどうでもいい、という価値観は本当に正しいのか。「どれだけ株主に配当を回せるか」だけが物差しになると、会社は、社会は歪んでしまう。
私はずっとその現場を見てきたから、ここは力を込めて言いたい。単に「うちの会社だけ儲かったらいい」という経営者ではない人たちに、ちゃんと刺さるような地域との関りをしたい、というふうにはずっと思い続けています。
「無理をしない社会貢献」という燃え尽きないソーシャルビジネスのあり方
──ソーシャルビジネスは良い部分ばかり語られがちですが、実際に起業をしてきた立場から見ると、どんなところが一番しんどいと感じますか?
正直、社会のためにという正義感だけだったら、簡単に心が折れるんです。私がいつも起業支援をするときによく言っているのが、「社会課題って振り回さなくていいよ」ということなんです。しんどくなるから。
そもそも社会課題って、簡単に解決できないから巷にコロコロ転がって、今も残っているんですよね。普通に儲けるビジネスをやる方が、圧倒的に楽なんですよ。本当に、圧倒的に楽です。
社会課題を解決する型のビジネスというのは、とにかく難しい。知力もいるし、経営力もいるし、半端なやり方をしたら大抵赤字にしかならない。だから難しいし、経営者は燃え尽きるんですよね。
──では、どのような会社のあり方が望ましいと考えますか?
私が大事だと思っているのは、「社会貢献をしよう」と意気込んでつくる会社ではなく、自分がやりたいことを続けていた結果、その奥に社会への貢献があった、そんな形の会社です。
とりわけ、身の丈ビジネスや小商いの規模でやっている事業者さんを見ていると、地域を良くしたいとか、地域に貢献したいって思っている経営者さんは本当に多い。身の丈の規模だからこそ、より自然にそれができているように感じます。
無理に社会課題を掲げなくていい。社会のために頑張りすぎなくていい。実は、他者のことをちゃんと考えている人は多いと感じています。だからこそ、その根っこの部分を封印せずに事業に活かして、自分のやりたいことをやっていく中で、結果として地域や社会にとって良いことになっている。それが一番、燃え尽きないし、続くんですよね。講義で学生たちにも「儲かれば儲かるほど社会がよくなるビジネスを考えよう」といつも言っています。
結局、続かない社会貢献ではもったいない。続く形で、無理をせずに、身の丈でやる。その延長線上に、環境保全も、地域への貢献も、自ずから含まれてくる。私はそういう事業体を増やしたいと思っています。
正直、社会のためにという正義感だけだったら、簡単に心が折れるんです。私がいつも起業支援をするときによく言っているのが、「社会課題って振り回さなくていいよ」ということなんです。しんどくなるから。
そもそも社会課題って、簡単に解決できないから巷にコロコロ転がって、今も残っているんですよね。普通に儲けるビジネスをやる方が、圧倒的に楽なんですよ。本当に、圧倒的に楽です。
社会課題を解決する型のビジネスというのは、とにかく難しい。知力もいるし、経営力もいるし、半端なやり方をしたら大抵赤字にしかならない。だから難しいし、経営者は燃え尽きるんですよね。
──では、どのような会社のあり方が望ましいと考えますか?
私が大事だと思っているのは、「社会貢献をしよう」と意気込んでつくる会社ではなく、自分がやりたいことを続けていた結果、その奥に社会への貢献があった、そんな形の会社です。
とりわけ、身の丈ビジネスや小商いの規模でやっている事業者さんを見ていると、地域を良くしたいとか、地域に貢献したいって思っている経営者さんは本当に多い。身の丈の規模だからこそ、より自然にそれができているように感じます。
無理に社会課題を掲げなくていい。社会のために頑張りすぎなくていい。実は、他者のことをちゃんと考えている人は多いと感じています。だからこそ、その根っこの部分を封印せずに事業に活かして、自分のやりたいことをやっていく中で、結果として地域や社会にとって良いことになっている。それが一番、燃え尽きないし、続くんですよね。講義で学生たちにも「儲かれば儲かるほど社会がよくなるビジネスを考えよう」といつも言っています。
結局、続かない社会貢献ではもったいない。続く形で、無理をせずに、身の丈でやる。その延長線上に、環境保全も、地域への貢献も、自ずから含まれてくる。私はそういう事業体を増やしたいと思っています。
編集後記:「お金をもらってその先で何をしたいのか」に応えるのが身の丈ビジネス
これまでの学校教育の中で、私は「理論」と「実践」は別物だと感じてきた。正解が用意された理論と、複雑で正解のない現場との間には、どうしても距離があるように思えていたからです。だからこそ今回、秋葉先生の話を通して、実践の中から生まれた考え方や判断基準に触れられたことは、とても価値のある学びでした。
特に印象に残ったのは、企業と社会課題の関係についての考え方です。社会課題の解決に取り組むことは、企業にとって負担や損失になるのではないか、という見方をこれまで私は持っていました。しかし、身の丈ビジネスの実践を知る中で、それは「無理な成長」や「分断された仕事の構造」が生んだ誤解なのではないかと感じるようになりました。自分・仕事・社会がつながった形で事業を設計すれば、社会課題への取り組みは企業の価値そのものになり得る。 人口減少が進む日本において、身の丈ビジネスは今後ますます重要になるビジネススタイルだと思います。すべての企業が拡大を目指す必要はなく、地域の規模や暮らしに合った商いを続けることが、結果として持続可能な経済につながる。その現実的な姿を、今回の話から具体的にイメージすることができました。 すでに多くのものが発展しきった社会では、お金を得るためだけでなく、その一歩先、「お金をもらい、その先で何をしたいのか」に答えられる働き方が求められるのではないでしょうか。身の丈ビジネスと社会課題との関わり方は、その一つの答えであり、これからの企業や地域にとって重要な視点だと感じました。
特に印象に残ったのは、企業と社会課題の関係についての考え方です。社会課題の解決に取り組むことは、企業にとって負担や損失になるのではないか、という見方をこれまで私は持っていました。しかし、身の丈ビジネスの実践を知る中で、それは「無理な成長」や「分断された仕事の構造」が生んだ誤解なのではないかと感じるようになりました。自分・仕事・社会がつながった形で事業を設計すれば、社会課題への取り組みは企業の価値そのものになり得る。 人口減少が進む日本において、身の丈ビジネスは今後ますます重要になるビジネススタイルだと思います。すべての企業が拡大を目指す必要はなく、地域の規模や暮らしに合った商いを続けることが、結果として持続可能な経済につながる。その現実的な姿を、今回の話から具体的にイメージすることができました。 すでに多くのものが発展しきった社会では、お金を得るためだけでなく、その一歩先、「お金をもらい、その先で何をしたいのか」に答えられる働き方が求められるのではないでしょうか。身の丈ビジネスと社会課題との関わり方は、その一つの答えであり、これからの企業や地域にとって重要な視点だと感じました。
