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「行政らしからぬ職員が求められている 〜マジックワードで終わらないために〜 」 片田 保教授


ソーシャル・イノベーション研究科教授 片田 保
自分を見つめるところから始まる
行政や企業の人たちと話をしていると思考が停止する場面に遭遇します。わがまちの人口は減り続けて超高齢に拍車がかかり、労働力は不足して地域産業は停滞。行政も財政難から道路や橋の老朽化対策もままならない。多様化する市民の要望に応えようにも職員は疲弊。気温は年々上昇して地球沸騰化の時代に突入、ゲリラ豪雨など大規模災害の発生頻度も増え、SDGsなど社会課題への対応が必要だと理解していても、どうすればよいかわからない。そして負のスパイラルに陥って思考停止、廃れるしかないという諦めムードも漂う場面です。
さて、地方行政は?
人口減による労働力不足の波は、地方行政にも押し寄せています。庁内で大きな構成比を占める55歳以上が定年を迎える一方、40〜50歳の職員は相対的に少なく、さらに近年では30歳以下の若手職員の離職問題も深刻になっています。これまで行政は職業として安定感があり、離職率は企業に比べると低かったのですが、仕事内容、労働時間や給与などの処遇、柔軟な働き方が難しい組織風土など、イマドキのZ世代からは敬遠されています。

もちろん、行政も改革に取り組んできました。従来の行政管理では組織が肥大化・硬直化してしまったため、1990年代後半には全国的に注目された新しい公共経営(New Public Management)の導入が広がりました。行政に企業の経営手法が導入され、競争原理による公共サービスの民間委託を増やして財政効率化を進めたのです。顧客志向、成果主義など従来は希薄だった経営視点が取り入れられたのも新鮮でした。しかし、財政面では少しは延命したものの、低価格入札が続いて体力のない企業が撤退し始めると、公共サービスの品質低下、持続性の懸念といった大きな問題も生じました。そして、外注した業務管理に追われて地域社会との関わりが希薄になり、当事者意識の低下につながった行政も少なくありません。

地域社会をよくしたいという「やりがい」があったはずなのに、地域社会との関わりが間接的になり、3年ほどで異動するゼネラリスト養成のローテーションによって、担当している仕事は無難にやり過ごすのが得策と考えるようになります。気概のあった新人も行政で3年も仕事をすれば、最初の思いは冷めてしまうか、思いとのギャップから離職して飛び出すかのいずれかになるでしょう。
わかったつもりのマジックワード
最近、企業だけでなく行政でも、「イノベーションを推進する、共創に取り組む」ことを掲げています。耳障りはよいですが、実際には何をするのでしょうか。計画に書いてさえあれば、なんとなくイノベーション、共創をやっている感じになれるマジックワードです。さらに、「〜推進することを検討する」「〜取り組むことが必要である」となれば、もはや進めているのかすらわかりません。ほどほどにやった感じを出して3年間をやり過ごす「コトなかれ主義」の典型です。心当たりはありませんか。
行政らしからぬ職員が、地域社会を動かす!
ある行政職員は「職場で働いていてもやらされ感ばかりでつまらない」と悩んでいました。別の職員は「今の職場にいても成長実感がなく、上司と話をしても埒があかない」とぼやきます。

こうした問題について職場で相談してみたところ「行政組織の閉塞感は悩ましい問題であり、職員個人がしっかり成長し、能力を活かせる職場について検討を進める必要がある」と言われたらどうでしょうか。上司は、それが問題であることは承知していて、対策しなければならないと思っている、となんとなく言っているに過ぎません。いつ変わるのか、それとも変わらないのか、悶々とする日々が続いていきます。「〜悩ましい問題」や「〜検討を進める必要がある」というのも、わかったような感じになってしまうマジックワード、行政が得意なよく見かける表現です。

学生A:もっとワクワク働きたい。
「そもそもワクワクって何?」「行政の仕事ってワクワクしていいの?」「ワクワクの弊害は?」「ワクワクすると気持ちがあがる?」「まず庁内の仲間とワクワクしてみよう!」「さらに地域社会でワクワクを広げてみよう!」。

学生B:自身の成長実感を持ちたい。
「成長実感ってキャリア形成と関係ある?」「上司は部下のキャリア形成を考えているの?」「キャリアって行政組織の中だけ?」「そういえば自分のキャリアについて考えたことない?」「自分自身のキャリアを考えてみよう!」「上司とキャリアについて語り合える場を作ろう!」。

行政内外の人とともにワクワクできる働き方に変える、上司と一緒にキャリア形成を語り合えるしくみを作る。いずれもマジックワードに踊らされないソーシャル・イノベーションです。彼らは大学院でともに学んでいました。このような行政らしからぬ職員が増殖してつながれば、地域社会の思考停止を乗り越えて活力が高まるきっかけになるでしょう。
閉塞感から抜け出すヒント、学びの場、越境の場

スタディツアーで訪問した豊岡市役所

そして、このような悩みや問題を抱えているのは、長野だけではありません。全国に視野を広げてみるとローカルな行政や地域の企業、NPOには、未来の実現にチャレンジしている先進的な事例があります。たとえば、地域産業の再興ために人流を解析して観光産業を伸ばし続ける豊岡市、先進的なEdTechにより学校と家庭をつなぐ戸田市、参加型のプログラム評価で行政と市民が共創する習志野市、鉄道地下化に伴う地上空間を地域一丸となって取り組む世田谷区。大学院には、最前線で試行錯誤している実践者を招いて学ぶゲスト講義、実際に現地で体感するスタディツアーなど、教科書では学べない刺激的なイノベーションのヒントが満載です。

授業の一例(長野県信濃町でのワーク)

この大学院には、多様なセクターから20〜60歳代まで幅広い年代の社会人学生が集っています。何を、どのようにイノベーションするのか。実現に向けて多様な主体を巻き込んで共創するために何をすればよいのか。一緒に学ぶ学生だからこそ、「問い」を検証するためのリサーチを学生どうしでやってみよう、というチャレンジもできます。お互いの信頼を絆に始める越境した関係づくり、これこそ共創の第一歩です。いま、感じている社会や組織の閉塞があるならば大学院を通じて越境してみましょう。

【著者】
片田 保 教授


メガバンク系シンクタンクにてコンサルティング、新規事業開発に従事。国や自治体の専門委員を歴任。行政や企業の戦略立案支援、テクノロジーを活用した実証・実装等。公民連携・共創による社会実証の企画運営・評価、デジタル・トランスフォーメーション(DX)戦略の立案・推進、業務プロセス改革に携わる。学士(文学)早稲田大学、修士(公共政策学)明治大学